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家業を継いで7年目を迎えますが、事業を継承した当時から海外進出を行ってみたい、という気持ちは持っていました。国内の人口は減少し続けるのは感じていましたし、当然国内の味噌・醤油に対する需要は否応なしに減少しますから。
「海外展開」といっても、何から始めたものか思案していましたが、3年前にJETROの輸出促進に関する説明会が地元であり、具体的に取り組みを考え始めたのはそのときからです。他に説明会に参加した業者さんもいらっしゃいましたが、当時は東日本大震災の直後。生産加工施設の被災により、国内の様々な需要が当県にも集まってきた頃でした。これらの引き合いに応じる形で、海外事業の優先順位を下げた方もいらっしゃったと思いますが、当社は逆に競合する相手が少なくなった好機ととらえ、より積極的に海外展開に取り組むようになりました。
日頃から仲良くさせて頂いている業者様から、「海外の商談会や展示会に一緒に参加しないか」と声をかけていただき、中国の大連に行ったのが初めての取り組みです。その後も台湾の展示会に参加するなどし、こつこつと商談を重ねながら、同時に海外のビジネスパーソンとのコネクションを構築していきました。
とにかく分からないことはJETROに相談していたほか、いろいろな支援機関のHPをチェックしていました。その後海外取引が何件か決まった後、輸出有望案件支援サービス(※)の対象に選ばれ、JETROからさらに手厚い支援を頂けるようになったのが幸運でした。JETRO紹介の様々な専門家に常に質問できるようになったことで、国際弁護士からは海外取引の契約に関して、またマーケティングの専門家からは海外取引でのリスク回避のアドバイスを頂くこともできました。こうした知識と経験の積み重ねが、海外展開に関する私の能力と自信を高めたと思います。私の場合はこれらの支援を無料で得ることができましたが、たとえ費用を負担してでも、こういった専門家のアドバイスを得る価値はあると思います。
打たれ強い心を持つこと、そして商品を様々なタイプの人間に説明できる技量を磨くということが常に求められました。習慣や歴史が全く異なる人々を相手にビジネスを行うわけですから。国によってはダイレクトに厳しい意見をぶつける文化をお持ちの方もいらっしゃいます。悪気があってのことではないと頭で分かっていたとしても、打たれ強い心を持たないと交渉は続けられないです。
少し紋切り型な言い回しになりますが、例えば欧米の方の場合は徹底した、論理的説明が求められます。「日本の調味料でおいしく安全」といっても、「おいしい」とは何をもって証明できるのか、「安全」の根拠は何か、等。一方で、アジアの方々の場合は「日本」というブランドイメージに対する憧れが強いことが多いですので、長々とした説明は逆に煙たがられます。ですから、自分の仕事の内容や商品について頭の中で整理することと、タイプの違う方々皆さんに満足いただけるように説明する能力が必要になります。これは大変な作業ですが、自分が売り込みたい商品の特徴は何かという再確認と交渉能力の向上には効果的でした。
海外展開を目指す業者の情報交換の場があれば、それぞれの持つノウハウの交換や、海外進出で協力し合えるパートナー探しにも役に立つのではないでしょうか。また、優秀な翻訳業者の確保が簡単であればいいとも思います。地方ですと、ビジネスに通じた翻訳業者がなかなか見つからない。業界にあったニュアンスで伝えるというのは、大変重要なことです。
意外と思うかも知れませんが、国内マーケットへのインパクトが大きかったです。海外展示場で日本人のバイヤーと知り合ったりするなどして、思いがけず国内での大型商談に繋がったこともあります。海外で頑張る私を見て、「ちょっとこいつを応援してやろうかな」と思ってくださったのだと思いますが、私にとってこういった方々との繋がりは大きな財産になっています。また、海外の取引相手が当社製品をHPに掲載下さり、それがきっかけで引き合いが来たということもあります。当社の売り上げにおける海外事業の割合はまだまだ少ないですが、間接的に業績に貢献している部分は大きいです。
海外展開といっても、当社の姿勢を変えることはありません。当社の商品はブランドイメージを大事にしていますが、目先の利益の優先ではなく、海外・国内問わず私と同じ価値観を持つ人と繋がりながら、ビジネスを進めたいと思っています。「小さな蔵ですが、海外に打ってブランドを構築している」という姿勢を大事にしたい。それが更なる海外展開に結びつくと思います。
輸出有望案件支援サービス
JETRO提供の事業の一つ。各分野の専門家が、企業の製品や会社の状況にあわせて戦略を策定し、マーケット・バイヤー情報の収集や海外見本市の随行、商談の立会い、最終的には契約締結まで手伝うものです(事前審査あり)