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今から約30年前から商社を通じて日本酒を出荷していましたが、15年前にフランスのアルコ-ル飲料展示会に有志で出展したところ、大変評判が良かった事から日本の地酒も世界で勝負できるのではないかと思いました。その後、香港に足を運び現地を生の目で見たのがきっかけでした。この輸出を行ったのが当社としての海外展開の始まりでビジネスとして真剣に考えるようになりました。
その後、秋田県等からの支援もあって、県内の5つの蔵元が集まって「ASPEC(Akita Sake Promotion and Export Council)」(※1)を結成し、連携して輸出を進める事としました。通常は各蔵元が単独で海外に売り込むのが普通なので、我々のように各蔵元が連携し、長い期間継続している例は珍しいと思います。「秋田の地酒を世界に」という地域貢献の意識を大事にし、自社銘柄の売り込みだけに固執しないようにしているのが良いのかも知れません。
はじめに取り組んだのがアメリカでした。当時は、日本酒に関して理解はあったものの商流の約8、9割以上は商社が抑えており、新たな新規ルートの開拓が必要でした。ブランドイメージを大切にできるルート探しには労力を要しました。
酒類の取引には複雑な免許制度や税制に関する商慣習が必要であり、自分たちがこれらに精通しているわけではなかったので、様々な方をコンサルタントに招いたものの、理想的な方に出会うまでには様々な行き違いなどもありましたが、後にアメリカの酒類業界に詳しい方と知り合うことができ、問題解決に繋がりました。様々なコネクションを活かして繋がる事ができたことが、いまの取引に繋がっています。
また、5社の中には、それぞれの商社に委託して輸出していた銘柄があったため、商社と競合するわけにはいかず、輸出銘柄が競合しないよう、各蔵元が懇意にしている商社と協議を行い、事前にトラブル防止を行えたことも大きかったです。海外に同一商品が複数ルートで流通しているようなことは避けることを第一に考えていました。
海外と日本の商習慣の違いなどもカルチャーショックでありましたが、情報交換を繰り返しながら、ひとつずつ互いに理解しながら信頼を深めていきました。今となっては「欧米式の契約や商習慣がグローバルスタンダードであった」のだと気づかされています。
あきた企業活性化センターの「フェニックスプラン21事業」(※2)が大変役に立ちました。販路開拓や情報収集に係る費用等に関し、弾力的に利用することができ非常に使い勝手が良かったと思います。
海外へ輸出した効果で、国内でのPR効果が非常に大きかったです。当社では海外に売り出す際の武器になるかと思い、海外の酒類品評会に出展し様々な賞を取獲得するよう努めてきたが、これが思わぬ効果を生みました。
例えば、各国にある日本の大使館では公式行事の際に日本酒を振る舞っているが、どの日本酒を購入するかを決定する際には、海外での酒類品評会でどの位入賞したか、最優秀の評価を受けたか等が大きな評価基準となっています。このため、当社の日本酒が大使館に納入されるなど、思わぬ効果を生んでいる。ASPEC参加の他の蔵元でも、そうした想定外の効果は生まれていると思います。
当社でいうと、現在の海外販路はアメリカ、香港、台湾、中国、韓国が主な取引先で、これらの国に築いた販路を確固たるものとし、輸出量を増やしていきたいと考えています。
他の国への新規輸出も考えていますが、その国の消費者がどの位日本酒を理解し始めているかによると思います。我々が取り扱う地酒は味の分かるハイエンドの層が対象ですので、日本酒を嗜む習慣がある程度根付いてからでないとリスクが大きいと思います。
(※1)ASPEC ”Akita Sake Promotion and Export Council” (秋田県産酒輸出促進協議会)
アメリカの巨大市場を開拓することを目的に、天寿・出羽鶴・秀よし・日の丸・銀鱗の5蔵により結成。日本酒とその背景にある歴史・伝統・造り手の手法なども併せて海外に伝えようというコンセプトのもと活動している。
(※2)フェニックスプラン21事業
秋田県内の企業競争力を強化し、企業の持続的発展と雇用の安定を図るために、企業が実施する経営革新等を総合的に支援する事業(事業は既に終了)。専門技術者等確保支援、新商品開発等支援等幅広い項目について、3年を限度に補助金による支援を実施していた。